お母さんから 結果的に引き離されてしまい 落ち着きがなくなっていた愛着障害の男の子
そのお母さんから とても多くのことを教わりました

まだ教員として駆け出しのころ

大学では聾学校教員免許を取得し
当時 とても増えていた ことばの教室を担当できる教員として
勉強してはいたものの

教員としてのイロハも知らぬまま
子どもの発達に関しては専門家だと勘違いしたまま

偉そうにしていた自分が とてもはずかしく

私に 子どもが育つということについて
もっとも大切なことを教えてくれたその親子に
今は ただただ感謝するばかりです

お母さんとの面談に臨む際の大切な点も 教えられました

お母さんとの面談を始めて 4回目でした

「お母さんの出番が少ないように感じたのですが・・・」

以前 お母さんからお借りしていたカセットテープ(今では知らない人の方が多いかも)には 男の子を囲んで会話をしている様子が録音されていました

90分録音されたテープが10本近くありました
それを全部聞いてみました
お母さんからそのテープをお預かりしたとき
子どものことをわかってもらうのに 少しでも役に立てば
と言われました

全部のテープを聞き終わって 臨んだ面談が4回目だったのです

お母さんと話を始めた私は 何気なく

「お母さんの出番が少ないように感じたのですが・・・」

という言葉を発しました

何も意識せずに面談に臨んだのですが
口から自然とその言葉が出ていました

テープには確かに家族の声が入っていて
男の子が まだ言葉を発するようになる前の時期から録音されてきたものだとわかりました

テープを聞いていくと 私の知っているお母さんの声は聞こえず
ほかの家族の声ばかりで 誰の声かよくわからない人の声をずっと聴いていたのでした

お母さんと男の子が どんな言葉のやり取りをしていたのか 私はそれを聞きたいと思っていたのだと思います
自分の聞きたいことが そのテープには入っていなかったように感じて ちょっとがっかりしていたのを覚えています

一番に聞きたかった お母さんが男の子をあやしている場面とか
そういうやりとりがなくて 私の口から出た言葉がこれだったのです

お母さんは涙ながらに子育てへの思いを語ってくれました

私が意図せずに発した言葉は お母さんにとっては 自分の思いを端的に表したものだったようです
お母さんにはピン!と心の底に響いたのです
私が下手な質問をするまでもなく お母さんは涙ながらに子育てへの思いをどんどん語っていきました

おじいさんとおばあさんは 子どもがなく
お母さんとお父さんは 養子縁組で今の家に入り 男の子が生まれました

おばあさんはとても若く 男の子が生まれたことを大いに喜び
かわいくて かわいくて仕方がない様子でした
お父さんも子煩悩で 男の子はだれからも愛されていました

おかあさんの涙のわけがわかりました

子どもを育てるときには やさしく愛情をかけるのはもちろんですが
危ないことをしたら しかって教えなければいけないこともあります
お母さんは ここはしかって教えなければと思うときには そうしていました

ところが おばあちゃんは 男の子がしかられるのを見ていられずに お母さんから男の子を引き離して 別の部屋で甘やかすのでした

ちゃんと子育てをしたい 愛情いっぱいのお母さんは
男の子を 家の中でたびたび引き離される寂しさを
泣きながら 私に話してくれたのです

家族の協力で母子の絆が深まった

面談後 自宅に戻ったお母さんは ご主人に内容を伝えました

子煩悩で 休日には自分も子どもといっぱい遊びたいのに
お父さんは 休日になると したくもないパチンコに出かけるなどして 男の子がおかあさんとずっと一緒にいられるようにしてくれたのでした

祖父母にも お父さんがお願いをしてくれて お母さんと男の子がいつも一緒にいられるように 環境を整えてくれました

10年ぶりくらいに 成長した男の子から話を聞きました

大きくなった男の子と たまたま話をする機会がありました

中学時代には自分は悪い人間だった
高校でやり直しをしようと頑張った
生徒会や部活でも活躍して 周囲から大いに褒められたそうです

当時は 愛着障害という用語はありませんでした

面談で お母さんが家族の問題に気付き
すぐに家族で対応したにもかかわらず
問題が解決するまでには 長い期間が必要なのだということも勉強させられました

自分が退職したら 子育てに関することで役に立てるようになりたい そう思っていたので 退職と同時にこの相談室を立ち上げました